広島地方裁判所 昭和40年(行ウ)16号 判決 1967年11月08日
広島市宇品町三九番地の二
原告
大原四郎
右訴訟代理人弁護士
宗政美三
広島市大手町四丁目一番七号
被告
広島東税務署長
綿重三郎
右指定代理人大蔵事務官
吉富正輝
同右
岩田雄三
同右
中本兼三
同右
石田金之助
同右
常本一三
同右
伊藤教清
同右広島法務局検事
小川英長
同右広島法務局法務事務官
池田博美
右当事者間の昭和四〇年(行ウ)第一六号所得税更正決定取消等請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。
主文
被告より原告に対する原告の昭和三六年度分所得金額を金三、六一八、六六〇円とする昭和四〇年三月一一日付再更正処分は金三、五一八、九二〇円を超過する部分についてはこれを取消す。
原告のその余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、請求の趣旨
一、被告より原告に対する原告の昭和三六年度分所得金額を金三、六一八、六六〇円とする昭和四〇年三月一一日付再更正処分は、金二、〇四二、六六〇円を超過する部分についてはこれを取消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
第二、請求原因
一、原告は被告に対し、昭和三七年三月九日、昭和三六年度分の総所得金額を金一、五四二、五六〇円と申告したが、被告は昭和三八年五月二七日原告の右総所得金額を金三、一一八、五六〇円と更正したので、原告は被告に対し同年六月八日異議申立をなしたところ被告は同年一二月一一日右総所得金額を金二、〇四二、六六〇円とする旨の決定をなした。
二、ところが、被告は、昭和四〇年三月一一日、原告の右総所得金額を更に金三、六一八、六六〇円と再更正したので、原告は被告に対し同月二二日異議申立をしたところ、同年六月一八日に被告は原告の異議申立を棄却したので、原告は同年七月一四日更に訴外広島国税局長に対し審査請求をなしたが同年一〇月二〇日右訴外人は審査請求棄却の裁決をなし、右裁決の通知は同月二四日原告に到達した。
三、しかしながら、被告の昭和三八年一二月一一日の決定が原告の所有する広島市富士見町一一六番の三、宅地九九坪七合五勺(仮換地後は五〇坪四勺。これを以下本件宅地という)の譲渡価額金五、〇〇四、〇〇〇円を正当に認定したのに対して、昭和四〇年三月一一日の再更正処分は右譲渡価額を金八、一五六、〇〇〇円と認定した結果によるもので事実の誤認に基く違法なものであるから、前記昭和三八年一二月一一日の再更正金額を超える部分につきその取消を求める。
第三、被告の申立
原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第四、被告の答弁
一、請求原因の認否
請求原因第一項、第二項記載の事実は認める。
同第三項記載の事実は争う。
二、被告の主張
原告は昭和三六年九月一日、原告所有の本件宅地のうち二五坪九合一勺を訴外木本圭介に対して金四、二二三、三三〇円で、同じく二四坪一合三勺を訴外水戸茂登喜に対して金三、九三三、一九〇円で(各坪当り金一六三、〇〇〇円で)それぞれ譲渡しているので、被告は右譲渡価額合計金八、一五六、五二〇円のうち五二〇円を切捨て、これより原告の右宅地、取得価額金二、二五一、八〇〇円を控除して、更に一五万円を控除した後の二分の一の金額、二、八七七、一〇〇円を原告の譲渡所得金額とし、これと原告の昭和三六年度の不動産所得金額金二五九、五六〇円及び給与所得金額金四八二、〇〇〇円との合計額金三、六一八、六六〇円を原告の総所得金額と認定したものである。
第三、被告の主張に対する原告の認否
被告主張の事実中、原告が本件宅地をその主張の日に他へ譲渡したこと、及び右不動産の取得価額、原告の不動産所得金額並びに給与所得金額が被告主張のとおりであることは認めるがその余の事実は否認する。
原告は訴外木本静江に対して本件宅地全部を金五、〇〇四、〇〇〇円(坪当り金一〇〇、〇〇〇円)で一括譲渡したものである。
第六、証拠関係
原告訴訟代理人は甲第一号証を提出し、証人川本雅秋、同水戸茂登喜、同高谷一人の各証言並びに原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証は、原本の存在及びその成立を認める、乙第九号証の二、第一〇号証の二・三、第一三号証の各被写体たる文書の成立は認めるがその余の乙号証は不知と述べた。
被告指定代理人らは、乙第一、第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証、第五号証の一・二、第六号証の一・二、第七号証の一ないし五、第八号証、第九号証の一ないし五、第一〇号証の一ないし三、第一一号証、第一二号証の一ないし三、第一三号証(第二ないし第一一号各証はいずれも文書の写真)を提出し、証人永田樟男及び同石田金之助の各証言を援用し、甲第一号証の成立は不知と述べた。
理由
一、請求原因第一・二項記載の事実、原告が昭和三六年九月一日その所有していた本件宅地を他へ譲渡したこと、原告の右宅地の取得価額が、金二、二五一、八〇〇円であること、原告の昭和三六年度の不動産所得金額が金二五九、五六〇円、同じく給与所得金額が金四八二、〇〇〇円であること、については当事者間に争いがない。
二、そこでまず本件宅地売買の経過について検討する。
成立に争いのない乙第一三号証、証人高谷一人の証言及び原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一号証、証人水戸茂登喜、同永田樟男の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、本件宅地の売買は、その仲介を原告から依頼された訴外高谷一人及び同人から更に依頼を受けた訴外杉原某と、かねて訴外水戸茂登喜から同人が訴外広島信用金庫の店舗敷地に提供した所有地の代りの宅地購入を依頼されていた訴外ダルマ商事こと岩永某との間に交渉がなされたが、原告は本件宅地全部の一括売買を望んでいたのに対して買手の水戸茂登喜は右宅地の半分しか望まなかつたため、右信用金庫店舗敷地売収について仲介業者として関与していた訴外木本圭介は、右敷地買収を完遂するため、本件宅地の残地を自己において引受けることとして本件宅地売買の成立をはかつたこと、昭和三六年九月一日広島相互銀行翠町支店において高谷一人、木本圭介、水戸茂登喜及び原告らが出会い同所において本件宅地に関する売買契約書が作成されたが、右契約書(甲第一号証)の上では、買主は木本圭介の妻である訴外木本静江、売買目的物は本件宅地全部、売買代金は金五、〇〇四、〇〇〇円(仮換地坪当り金一〇〇、〇〇〇円)手付金五〇〇、〇〇〇円となつていること、そして同年一〇月九日本件宅地に関し同日付売買予約を原因として持分五〇〇四分の二五九一につき木本静江名義、持分五〇〇四分の二四一三につき水戸茂登喜名義の各所有権移転請求権保全の仮登記がなされ、ついで同月一六日水戸茂登喜のため売買本登記、昭和三七年四月二三日木本静江名義の仮登記の抹消登記及び右仮登記にかかる持分五〇〇四分の二五九一について訴外藤田定三に対する売買による持分移転登記がなされていること、をそれぞれ認めることができ右認定を覆すに足る証拠はない。
三、次に資金の動きについて検討する。
原本の存在成立につき争いのない乙第一号証、被写体たる文書の成立に争いのない乙第九号証の二、第一〇号証の二・三、証人石田金之助の証言により被写体たる文書の成立が認められる乙第二号証、第三号証の一、第四号証、第五号証の一、第六号証の一・二、第七号証の一ないし五、第八号証、第九号証の一・三・四・五、第一一号証、右証人及び証人水戸茂登喜の各証言により被写体たる文書の成立が認められる乙第三号証の二、第五号証の二、並びに証人水戸茂登喜、同高谷一人、同永田樟男の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、次の(一)、(二)、(三)の各事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 水戸茂登喜は昭和三六年九月一日広島相互銀行宛金五〇〇、〇〇〇円の小切手を振出し、これを木本圭介に交付し右は同月二日右銀行翠町支店を経由して同銀行本店の当座預金から支払われていること、並びに同年一〇月六日水戸茂登喜は同銀行本店の普通預金から金三、五〇〇、〇〇〇円を引出し、その中より金三、四三三、一九〇円を木本圭介に支払つたこと。
(二) 訴外有田喜太郎は、昭和三六年一〇月七日、広島相互銀行翠町支店より金三、八〇〇、〇〇〇円の手形貸付を受け利息及び収入印紙代金一〇、八四〇円を差引き、金三、七八九、一六〇円の現金を受領し、同日木本圭介は同銀行支店の同人名義の普通預金として金六五、八三〇円を入金していること。
(三) 原告は昭和三六年九月一日木本圭介から金一、〇〇〇、〇〇〇円を受領し、その中から金二〇〇、〇〇〇円を高谷一人に交付し残金八〇〇、〇〇〇円を広島相互銀行翠町支店の原告名義の普通預金として入金したが、その内訳は通貨が金三〇〇、〇〇〇円、小切手が金五〇〇、〇〇〇円であつたこと、原告は同年一〇月七日に同じく右普通預金として金二、九八三、一九〇円を入金し、同日更に同銀行支店の通知預金として金三、七二三、三三〇円を入金したこと、原告は同月一六日右通知預金を解約し元利合計金三、七二五、六七五円より預金利子諸税として金二三四円を差引かれ、金三、〇〇〇、〇〇〇円を自己宛小切手として受領し残金七二五、四四一円を前記普通預金として入金したこと、原告は同月一七日右自己宛小切手金三、〇〇〇、〇〇〇円を広島銀行宇品支店を経由して支払を受け、同月一九日同銀行支店において伏見孝司外九名の架空名義の各金三〇〇、〇〇〇円の通知預金として計金三、〇〇〇、〇〇〇円を入金したこと。
四、次に三、の(一)・(二)の事実と(三)の事実とを対比して認められる資金の動きと、二で認定した本件宅地売買の経過を総合し証人永田樟男の証言により成立を認められる乙第一二号証の二・三と、証人水戸茂登喜の証言及び原告本人尋問の結果を参酌すると、
(一) 本件宅地売買は前記仲介人らの間の話合の結果、売買価格は仮換地坪当り金一六三、〇〇〇円として水戸茂登喜がその欲する仮換地二四坪一合三勺に相当する部分を買受け、残余仮換地二五坪九合一勺に相当する部分を前記認定の事情から木本圭介が引受けることになつたが、売主である原告に対する関係では原告が一括売買を望んでいたため、一応木本圭介が妻静江名義で一括して買主となつて売買契約書(甲第一号証)を作成し(但し右契約書記載の売買代金額は仮装)、水戸茂登喜の買受分については即時同人に転売する形式を採つたこと、
(二) かくて木本圭介は昭和三六年九月一日に水戸茂登喜から受領した金五〇〇、〇〇〇円に所持金五〇〇、〇〇〇円を加えて、手付金として金一、〇〇〇、〇〇〇円を原告に交付し、原告は内金二〇〇、〇〇〇円を仲介料として高谷一人に支払つたこと、同年一〇月六日に水戸茂登喜がその取得する持分に対する残代金として木本圭介に支払つた金三、四三三、一九〇円は同人からそのまま全額が本件宅地売買代金の一部として原告に支払われ、原告は、同月七日右金員のうちから金四五〇、〇〇〇円を除いて金二、九八三、一九〇円を普通預金として預入れたこと、一方木本圭介の引受持分の残代金については、同人は有田喜太郎に融資を頼んでいたが、同月七日有田喜太郎が手形貸付により受領した金三、七八九、一六〇円を木本圭介において借用し、内金六五、八三〇円を差引いた金三、七二三、三三〇円を本件宅地売買の残代金として原告に交付し、原告は同日これを通知預金として預入れ、結局原告は本件宅地(仮換地坪五〇坪四勺)の売買代金、仮換地坪当り金一六三、〇〇〇円、総計金八、一五六、五二〇円の支払を受けたことが認められ、証人高谷一人の証言及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用せずその他右認定を覆すに足りる証拠はない。
五、そうすると、右譲渡価額金八、一五六、五二〇円より、前記原告の取得価額金二、二五一、八〇〇円及び本件宅地譲渡に関する経費と認められる原告が高谷一人に支払つた仲介料金二〇〇、〇〇〇円を控除した金五、七〇四、七二〇円から更に金一五〇、〇〇〇円を控除した金額の一〇分の五に相当する金額金二、七七七、三六〇円が原告の資産の譲渡所得金額となり、これと同年度の原告の不動産所得金額金二五九、五六〇円及び給与所得金額金四八二、〇〇〇円との合計額金三、五一八、九二〇円が原告の総所得金額となる。
六、以上認定説示のとおりであるから、原告の本訴請求中、被告の原告に対する昭和四〇年三月一一日付再更正処分における原告の昭和三六年度分所得金額金三、六一八、六六〇円のうち、前記金三、五一八、九二〇円を超える部分についてはその理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 胡田勲 裁判官 永松昭次郎 裁判官 淵上勤)